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優しくない関係

by もちみ



 なにもベッドの上に限らず、同性である相手の体なんて見慣れていて。当然、そこにある傷にも自然と目がいってしまうものだ。
 余分な脂肪のない戦うためだけに鍛えられた男らしい綺麗な体には、致命傷こそないが多くの傷があった。それは、下手をすれば死んでもおかしくないような状況を何度も潜り抜けてきた証でもある。
 この傷の大半を負わせたのは僕だ。彼の実力を知っているが故に彼に頼り、怪我を免れないような作戦を立てては無理矢理実行してきた。
 そして、現在。彼の体にある無数の消えない傷を見て、己の不甲斐なさを思い知る。
「すみません。」
「ナニが?」
「傷、また増えましたね。」
 妖獣に抉られかけた時の傷に触れる。本人曰く「掠っただけ。」だそうだが、当時着ていた軍服は脇腹の部分が大きく破れ、もはや使い物にならなくなっていた。
「お前傷とか気にするタイプだっけ? それとも萎える?」
 まるで僕の視線を誘うように腹筋の辺りから鎖骨にかけて見せつけるように自らの掌で撫で上げる。
 彼の引き締まった体に思わず喉を鳴らしたが、それ以上はなんとか踏みとどまった。
「貴方の体に萎えることはありませんよ。」
「なら、いいだろ。」
 そう言って僕の首に回された手を取って口づける。
「でも、僕のせいで傷が増えていくのは気になりますね。貴方のことを大切にしたいのに…」
 貴方は唯一、僕の背中を預けられる人だから。
 退屈な世界を変えてくれた人だから。
「…あのなぁ、俺はいつからお前のオンナになったのよ?」
「は?」
 彼は僕の手を振り払い、胡乱な目を向けてくる。そんなにおかしなことを言っただろうか。 彼の心情を察することのできない僕に対して、溜め息を吐く。そして、姿勢を正したかと思えば真正面から僕に向き直った。
「守ってくれなんて一言も言ってねぇし、俺のこと守るつもりだとかほざいたらブッ飛ばすぞ。」
「……」
 何も言えずに固まる僕に、彼が呆れた表情を浮かべた。
「げーんすい。忘れてるみてぇだから言うけどな、俺ら軍人なの。怪我すんのなんて当然だし、死にかけることだってある。でも、それが“生きてる”ってことだろうが。」
“煙草が美味しいと思う瞬間”に、隣に在る人が傷だらけでも。
 生きてさえいれば。
「捲簾…」
「それにな…」
 天界人の証である藤色の瞳は、他の誰も持ち得ない強い光を灯して僕を見据える。
「お前が立てた作戦だから命張るんだよ、俺は。命張って、血だらけでも生きて帰って、お前が立てた作戦を完璧にこなせるのは俺だけだって見せつけてんの。」
 急に胸倉を掴まれて、唇には彼の唇が。

「俺のこと守ろうとする暇があんなら他のモン守れよ。俺はぜってぇお前を守って死んだりしねぇから。」
 唇を離して挑戦的に笑うこの男を、僕はどうしたら自分のモノだと誇示できるだろうか。

【END】
 

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